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Dream Story
- Les autres me
- 16.【La privation de sommeil】 17.【Tous les jours des gens】 18.【Premiere Duel】 19.【Premiere Victory】 20.【traitant】-Si Ryou- 21.【traitant】-Si Bakura- 22.【Faible fievre】 23.【Surrender】 24.【Explorez】 25.【Rencontres】 26.【Garnet】
- 【Premier transfert】-N゚ 01〜15-
- + remise +
- + aller a TEXTE +
- + aller a principal +
言わなくては。彼女に、に、
『ごめん』って。
斜陽に照らされた部屋の中は、まるで異次元の様だった。
正面に対峙する見知った筈の彼女は、ボクの知らない人だった。
異様に大きな太陽は彼女を闇の中へ飲み込み、彼女は其の中で悲しそうに微笑む。
此処は何処だろう。
夕日とは、こんなにも赫い輝きを放つものであっただろうか。
闇の中で、彼女の真紅の瞳が、ボクを見詰めていた。
「キミは…、誰?」
纏った闇を脱ぎ去る様に、一歩、二歩、此方に進み出た彼女は、それでも、やはりだった。
戸惑いがちにボクから視線を背け、慎重に言葉を選びながら、何時ものとは違う落ち着いたやや低い声で囁く様に口を開いた。
「初めまして…に、なるのかしらね。了。私は…、…。」
其処まで言うと彼女は何か噛み締める様に、悲し気に沈んだ。
『私は…、』。彼女は…何だろう…?
その言葉の続きが聴きたくて、じっと、身動ぎせずに待っていた。
直ぐ其処迄出掛かった言葉達は終ぞ音になる事は無く、また飲み込まれてしまう。
彼女は軽く肘を曲げ、身体の前で両手の指先だけを合わせ持て余したまま沈黙した。
そして、既知感。
「…?」
これは…の癖。
窮すると、全く同じ様相で、もまたこうしていた。
時には笑い、泣きながら。
そう。今目の前に居る、彼女の様に。
「私は…、貴方の知っている、""ではないの。」
「ぇ…それって…、」
ではない、""と言う身体の、別の彼女。
それは…つまり…やはり彼女もまた、彼が言っていた様に…。
深い絶望が、がさがさと音を立ててボクの背後に躙り寄る。
は、彼女もまた、…ボクと同じ −所持者 。
目の前の、直ぐ側に、後もう一歩の所に立ち尽くす彼女を力一杯に突き飛ばし、逃げ出したい。
大声で叫び出す衝動に駆られる。
必死の思いで咽喉の直ぐ其処迄出掛かけた叫びを飲み込むと、変わりに涙が一筋、頬を伝った。
「…ごめんね。」
「何で…謝るの?」
彼女の言葉に息を呑み、真っ直ぐに彼女を見据える。
其処に居るのは、やはりで…。
謝るのは、ボクの方なのに。
そうだ。ボクはに、謝らなくては。
だけど彼女は…ではないのだ。
「…っ、は!?」
今頃になって重要な事に気が付く。
ボクに対峙ずる彼女がではないのなら…ボクの知っているは!?
彼に、バクラに何か…されたのか。
そうでなければ…、そうでなければ、目の前に居る彼女もまた、ボクの前に現れる事も無いのではないのか。
焦燥と失望。
約束したのに。
『解った』って、そう、言ったのに!!
「バクラと言う男に、少し吃驚してしまってね。心の奥で休んでいるわ。心配する事は、何も無い。」
「…え?」
寂し気に優しく微笑んだ彼女が、とても綺麗に見えた。
肩透かしを喰らい、力が抜ける。
だけど、自分の耳を疑う。
驚いただけ?何も心配する事は無い…?
…本当なのだろうか。
「だけど…、もう少しだけ、休ませてあげてね。」
一つ一つ、慎重に言葉を選んでいるのであろう事は容易に想像が出来た。
ぎこちなく言葉を紡ぐ彼女は、ボクに気を使ってくれているのだろう。
きっと彼女は…悪い人ではない。
既に日は落ち室内は薄暗い闇に包まれ、何処から何処までが現実なのか酷く曖昧だった。
まるで…全てが、幻の事の様で…。
ボクは出来る限り小さな動きでそろりと移動し、室内の灯りを点す。
振り返ると、微かに驚きの表情をした…、やはり、""が居た。
「どうぞ?」
ダイニングテーブルの椅子を引き彼女に勧めると、ゆっくりと戸惑いがちに此方へ歩み寄る。
世界が電子の白い光に照らされ、夢の中から抜け出た様に全てが醒めた。
ボクは漸く平静を取り戻す。
彼女が座るのを見届けた後、少し待っていてと声を掛けキッチンへ向かう。
ボクは漸く独りで状況を整理する機会を得た。
ティーセットは何処だったっけ…。
にも、ボクと同じ様に、もう一つの人格が存在する事は、事実。
ポットと揃いで誂えられた筈のカップが見付からない。
はバクラに会い、何を感じたのだろうか。
あ、…その前にお湯。
『心配する事は、何も無い。』と彼女は言った。なら…今はそれを信じるより他に無い。
角砂糖は、何に入れて出せば良いのだろう?
傷付ける様な事は…しなかったろうか。
は何時も必ず三つも入れるからなぁ…甘すぎやしないのだろうか。
千年アイテム。彼女が所持者なのであろう事は、肯定するより他に、無い。
冷蔵庫の中には、特にめぼしい物は無い。
バクラは彼女達に、何を言ったんだ。
…お茶だけで良いだろうか。
ボクは…嫌われて、しまったのだろうか…。
缶の蓋を開けると、ダージリンの香りが鮮やかに現実を感じさせた。
「お待たせ。」
リビングへ戻ると、姿勢良く腰掛け俯きがちだった彼女は、はっと顔を上げる。
手に持つトレーへ視線を動かすと、気を使わなくて良いのにと申し訳無さそうにそっと言う。
落ち着いた、大人びた人だと、そう思った。
何て切り出そうか考えている内に砂時計の砂は全て落ちきってしまう。
ポットから注がれた紅茶は、綺麗な琥珀色をしていた。
「は…如何してるの?」
「…もう少し、時間が必要かも知れない。余りにも彼が現れたのが突然だったから…驚いてしまって、上手く現状が把握出来ないみたい。」
「何か…されたの?」
重く、引っ掛かる様に声に出すと彼女はやはり俯きがちに、少し笑った。
何故…笑ったのだろう。
彼女の真意が、理解出来ない。
「彼に謝っておいて。酷く突慳貪な言い方をしてしまったから。」
「え…えぇ?…ぁ…、…うん。」
謝る?彼女が?誰に?バクラに?
…有り得ない。
あのバクラに、一体彼女は何を言ったんだろう…。
ティーカップを手に持った彼女は何処か楽しそうにも見えた。
「あれ?」
「えっ?」
不意に違和感を感じる。
一瞬、本当に一瞬だったけど。
彼女は僅か不安気に表情を曇らせる。
いや、そんな…大した事じゃない、何かが…。
「あっ…、砂糖。」
「お砂糖が…如何かしたの?」
「…入れないの?」
数秒の間きょとんとした後、彼女は声を立てて面白そうに笑った。
ボクは…何かおかしな事でも言ったのだろうか。
そして、其の時初めて、僅かばかりだったけれど、彼女が目を合わせてくれた事に気が付いた。
ずっと俯きがちだったのは…ボクと目を合わせない様にしていたから…なのではないだろうか。
「は三つも入れるから。甘すぎやしないのかしらね。」
軽いデジャヴ。
それは、さっきの、ボクの…。
やっぱり彼女は、悪い人じゃない。
何故かは解らないけど、そう確信した。
きっと、無邪気に笑う彼女が、余りにも自然だったから。
と変わらぬ笑顔だったから。
「安心したよ。の中に居るのが、君みたいな人で。」
「そう?本当は、それはそれは恐ろしい邪神みたいな人かも知れないわよ?」
「ぇ、えぇ!?それは…参ったなぁ。」
困り頭の後ろに手を当てると、再び彼女と視線が絡み、二人で笑い合った。
邪神みたいなのは…バクラの方だよなぁ…と、少しげんなりする。
彼の事を思い出し、自然と溜め息を吐くと彼女は少し困った様に如何かした?と問う。
ボクは軽く頭を振って見せるけど…聞きたい事、聞かなくちゃならない事が沢山ある。
再び彼女を見遣ると、彼女は正面に、ボクを捕らえていた。
「目、合わせてくれる様になったね。嫌われてるのかと思ったよ。」
「ぁ…、…ごめんなさい。」
「え、え!?何で謝るの!?」
冗談交じりに軽いつもりで言ったボクの言葉で、彼女の表情は見る間に哀し気に曇っていく。
折角打ち解けたと思ったのに、彼女はボクの言葉で再び俯いてしまった。
何か…拙い事を言ってしまったのだろうか…。
息を呑み、搾り出した様な彼女の謝罪の言葉は、何か悲痛なものを含んでいた。
「…酷い色でしょう?」
僅か沈黙の後、彼女自身がその沈黙に耐え切れなかったかの様に、右目に指先を寄せ、自嘲気味に笑いながらぽつりぽつりと呟く。
『色』。それは寄せた指先で哀しげに光る、真紅。
左目は何時もと変わらない、ボクの知ると同じ色。
だけど確かに、彼女の右目は其れとは似ても似付かない紅玉の色をしていた。
「紅榴石って知ってる?」
「…、っへ?」
唐突に切り出すボクに、彼女は困惑を隠せずに間の抜けた声を出す。
ボク自身、突飛な切り出し方だとは思ったけど…咄嗟には思い付いた言葉は其の侭零れてしまう。
でも…これで良い。
「ガーネットって言う宝石なんだけど、凄く硬い石だから誕生石では一番目に選ばれたんだ。意味は友愛。古代から護符として珍重されてね。暗闇を照らす力があって、ノアの方舟の先端に吊るしたそうなんだ。」
「それが…如何かしたの?」
「調度、キミの瞳と、同じ色の石だよ。」
訝し気に問い返した彼女は其処まで言うと、僅かに目を見開き沈黙する。
ボクなりに元気付けたつもりだったんだけど…そう黙って居られると…困る。
弁解しようと口を開き掛けた時漸く彼女が、ゆっくりと微笑んだ。
其の様がとても綺麗で、息が出来なくなった。
「ありがとう。」
ただ一言、そう言って彼女は真っ直ぐにボクを見詰めた。
其の瞳は、火炎の様に吸い込まれそうな色を静かに湛え、とても綺麗だと思った。
「でもね、」
ボクを見据えていた目から、すっと感情が消える。
背中を何か寒いものがぞくりと走った。
「ガーネットは他の石と一緒にすると無意味になる弱い石よ。この瞳がガーネットなら、もう片方の瞳と共にあるのだから…何の意味も成さないわね。」
「そ…、んな、…」
彼女を…より深く、傷付けてしまった。
浅はかな知恵を披露し、ボクは見事玉砕した。
そんなつもりは無かったのだと、今更弁解しても遅い。
身体中から、血が抜けていく妄想に飲み込まれる。
そして…彼女の輝石が、にやりと歪んだ。
「いけないなぁ獏良君。そんな邪な事を考えて。うら若き乙女に一体何をしようと言うんだね。」
それは…に言われた言葉。
彼女の口許が細い繊月の様に弧を描いた時、漸くボクはからかわれたのだと気が付いた。
「ひ、酷いよ!ボク真面目に言ってるのに!!」
「真面目に口説いてたの?じゃなくて、この私を?」
「なぁっ!?ち、ちがっ、ちが、違うよ、そうじゃなくて!!!」
「あら、違うの?それは残念だわ。」
そう言う彼女は、ちっとも、全然、全く残念そうには見えない。
チェシャ猫の様に、にやにやと楽しそうな笑みを浮かべている。
…彼女には…勝てない。
優雅な仕草でカップを手にする彼女は、とても満足そうだ。
やっぱり…彼女も邪神かも。
沈黙するボクに彼女は済まそうに苦笑して、「ごめんなさいね。」と言った。