Dream Story
Les autres me
16.【La privation de sommeil】 17.【Tous les jours des gens】 18.【Premiere Duel】 19.【Premiere Victory】 20.【traitant】-Si Ryou- 21.【traitant】-Si Bakura- 22.【Faible fievre】 23.【Surrender】 24.【Explorez】 25.【Rencontres】 26.【Garnet】

【Premier transfert】-N゚ 01〜15-
+ remise +
+ aller a TEXTE +
+ aller a principal +


「ご馳走様でしたぁ!」

 ドアノブに手を掛けると、扉の角に取り付けられた小さなベルが澄んだ優しい音をたてる。
外は依然変わらぬ夏の陽射しに、照明の落とされた店内に慣れていた私の目は射抜かれた。
眩しい。
幾分か日は傾いたものの、黄昏れ迄にはまだ十分に時間がある事を予感させる。
さて…これから如何したものか…。
 目的の一つは果たされたが、まだ大切な事が残っている。
−バイト探し。
以前住んで居た街で勤めていた所には、距離として現実的に通う事はもう不可能なので、童実野町に来る時に辞めてしまった。
今は海馬邸に身を寄せている訳だが…何時迄も頼ってばかりは居られない。
立て替えて貰った学費や生活費も、何時かは返済しなければならない。
少しは貯金もあったが…学生のバイトなんぞはたかがしれている。
 考えながら…やはり学校は辞めて、働くべきなのではないかと考える。
今日帰ったら、もう一度瀬人に相談してみよう。

?ねぇ、聞いてる??」

 肩を軽く叩かれ、我に帰る。
−聞いてる?−
一体…何をだったろうか。
気が付けば町並みは様相を変え、静かだった通りも今では賑やかに活気づき、見知らぬものになっていた。

「あ…あれ。此処…何処?」
「えぇ?、全然喋らないと思ったら、無意識で歩いてたの?」

 驚いた様に声を上げた了は、その後少しがっかりした様だった。
私の意識が何処か別の次元に行っていた間、彼は何を話して居たのだろうか。
申し訳無い気持ちで一杯になる。

「ごめんね…ちょっと考え事してて。」
「考え事?」

 不思議そうに私の言葉を拾い繰り返した彼は、その内諦めにも似た表情で微かに笑うと、何を考えて居たのか私に問うた。
逡巡し、漸く意を決し問いに返す事にする。
微かな期待を込めて。

「了ってさ…、何時も直帰?」
「え?うん。そうだけど…それが如何かしたの?」
「…うぅーん…。」

 だがそれは…脆くも一瞬にして崩れた。
元々…童実野高校でバイトは禁止されている。
それに、彼は多分、苦学生と言う訳では無いのだろう事は容易に想像出来た。
切迫感等微塵も感じさせない立ち振る舞いからは、余裕すら感じられる。
 私は迷う。彼に聞いてみるべき事なのかどうか。
しかし…ここまできて中断と言うのも何か不自然だ。
それに彼ならきっと…力になってくれる筈…と考えるのは…少々都合が良すぎるだろうか?
だけどもう此処まで来たら引き返せない!

「あのね、私バイトしたいの。それで…何処か良い所、知らないかなぁーって思ってね。」
「バイト?が?」
「そうよ。」

 偉いでしょ?と言わんばかりに軽く胸を反らし戯けて見せる。
そんな私を、了はさも意外だとでも言う様に驚いた表情を作り、…その後直ぐに怪訝な顔をする。
やはり…あまり乗り気にはなってくれないか。
校則とか、そう言うの…やっぱり気にするのかな。
だが次に私は、そんな私の思いとは全く別次元の事を言い放たれた。

…ちゃんと働けるの?お皿とか割らない?」
「んな゛ぁ…っ!?失敬な!!しっ失礼にも程があるよ!?」

 彼は、了は一体、私の事を何だと思っているんだ!?
私はそれなりに、一通り身の回りの事くらい自分で出来る。
家事だってそうだ。
前のバイト先でだって、大きな失敗をした事は………、二、三回しかない。
だがそれは、人間だもの。しょーがない。うん。
誤差の範囲内だ。うんうん。

「なら良いんだけど…。あっ!ならケーキ屋にしなよ。ほら、残ったの貰えるって言うじゃない?」
「それは…了が欲しいだけじゃない?」
「えぇ?くれないのぉ…?のケチ…。」

 まるで捨てられた子犬の様に、今にも泣き出しそうに悲愴な表情で此方を見詰めてくる了に一瞬だけ心が揺らぐが…
ちょ、一寸待って。うん。
待て。待て待て待て。
何か話しが変な方向に…ずれてないか!?
てゆーか…ケーキ屋前提?何時の間に!!

「ちがーう!!そうじゃなくて!!!」
「でも、飲食店の方が、学生の求人は多いんじゃないかな。」

 にっこりと微笑んだ了に、私は先程怒りを爆発させようと両腕を上げたまま、弛緩した。
もう…何処迄本気なんだろう…。
そろりと腕を下ろし、諦めにも似た感情で笑う。
仕方無いなぁ…。了には、敵わない。

「やりたい事とか、無いのかい?」
「んー…特にこれと言っては…。時給が良ければ…何でも…!!」
「あはは。それじゃあ漠然とし過ぎだよー。」

 確かに。
だけどそれは事実だ。私は仕事を選んでいる場合では無い。
腕を組み、しばし思案しながら肩を並べ歩き出す。
 如何やら街の中心まで来た様だ。
賑やかな町並み、沢山の人通り。
先程までの静かな雰囲気とは全く比べ物にならない。
無意識のまま、私はどれくらい歩いて居たのだろう。
数年…ほんの数年前迄は、こんなにも栄えてはいなかったように記憶している。
もっと硬くて…そう、無機質な感じだった。

「随分賑やかになったのね。昔はもっと暗いイメージだったけど。」
「あぁ…この辺りは特に、新しくKCが建てたビルが多いからねー。」
「KCって…オフィスビルって事?」

 周囲を見回しながら更に問う。
幾つも立ち並ぶファッションビルや、カフェテラスにゲームセンター。
中央には噴水が涼し気に飛沫を上げていた。
人々は談笑し、明るい雰囲気。
勿論スーツ姿の人も居る。
だが大半はもっと若く…、そう、私達と然して変わらない様な人々。
こんな所にオフィスビル?
何だか場違いだ。

「ううん、そうじゃないよ。この辺り一帯のビルは何年か前に、みんなKCが建て直したんだ。ボクも詳しくは知らないけど…。」
「ええぇ!?この辺、みんな!?」

 驚いた。そんな一大事業まで出掛けているのか。KCは。
感心し呆ける私に、了は「この辺りは、KCのお膝元だからね。」と、顔の横で人差し指を立て、笑いながら付け加えた。
お膝元だからと言っても…此処までくると…公共事業レベルなんじゃないだろうか。
そのKCの社長が…あの瀬人だなんて…。
何だか、急に遠い存在に思えて、少しだけ寂しくなる。

「あっ!そうだよ、海馬君に頼んでみたら?いくらでも紹介してもらえると思うけど。」

 それは…私も考えた。だけど…それは…。
軽く頭を振ると、提案した筈の了は、何故か安心した様に微笑んだ。

「私、自分の力で探したいの。」
「そっか。」
「うん。とは言っても…今こうして、了に助力を頼んでる訳だけどねぇ…あはは…はぁ。」

 "自分の力"とは、私も耳障り良く言ったもんだ。
既に、もう了に頼り切って仕舞っていると言うのに。
そんな自分が、少しだけ嫌いになる。
…やばい。何か落ち込みそうになってきた。
いかーん!今は落ち込んでる場合じゃないんだってば!!

「ぃよっし!了!!あっちの方行ってみようよ!」
「な!?何!、急に如何したの!?そんなに引っ張ったら、い、痛いよ!」
「つべこべ言わない!さぁー!がしがし行こう!!うん!!」
「が…がしがし?」

 立ち止まって居ては思考も止まってしまいそうだった。
それが恐くて、私は無理矢理にでも前に進む。
向かう方向さえ判らないけれど…私はただ我武者羅に歩き出す。
そんな私に腕を引っ張られた了は、可哀想におたおたとしながら私の後を歩く。
何か遣りたい事がある訳じゃない。なら、行き先なんて何処でも良い。
進まなければ何も見付け出す事は出来ない。歩み出せば、何か見付かるかもしれない。
それなら私は、私には、歩き出す以外、他に無い。
 賑やかな広場を抜け、分岐する通りの一つに入る。
そして漸く気付く。
私は…どれだけの距離を、意識を飛ばしたまま歩いて居たのだろう。
自分の器用さに驚く。
頭の片隅から、微かな笑い声が聞こえる。
何だ…、そう言う事。
なら、私が怪我せずに歩いていた事は、ちっとも不思議じゃない。

「此処…駅前だったんだね。」
「…本当に大丈夫なの?…。」
「いやぁ〜…これは…ちょっと吃驚した、かな?」

 学校から駅までは少し距離がある。
確か先生は、電車通学の生徒はバスを使って登校する生徒も多いって…言ってなかったっけ?
途中立ち寄った喫茶店は…学校からはそんなに極端に距離は無かった様に感じた。
だとしたら…その喫茶店を出てから、結構な距離を歩いたのではないだろうか。
其の間、彼は何を話していたのだろう。

「今日、海馬君は…帰り遅いの?」
「は?…え?瀬人?」

 全く意識の外にあった名を出され狼狽する。
いきなり…何を言い出すんだろう。瀬人の事を何故了が…?
それは余りに唐突で…私の脳内処理タスクは上手く動作する事が出来ない。
もしかしてもうそんなに遅い時間なのだろうかと携帯で時刻を確認する。
無機質なデジタルは16:23と静かに表示していた。
…まだそんなに慌てる様な時間では無いけれど…?

「瀬人が…如何かしたの?まだ四時半だし時間はあるけど…。」
「ボクん家、この道を真っ直ぐ行った所なんだ。…、まだ少し歩くけど良ければ…寄って行かないかい?」

 この先に、了の家…?
了が指差した先に目を凝らすと、今までとは違う雰囲気の建物が見え隠れする。
そっか。この通りの先は、もう住宅街なのか。
今からあの広場まで引き返しうろつく程の時間は…もう厳しいのかも知れない。
まだ何も、手応えさえ皆無で、そんな中で現実は迫る。
…とても、心残りだ。
小さく溜め息を吐いてみるが、過ぎて仕舞った時間は如何やったって戻せない。
なら、…ちょっとお邪魔してみたい気もする。
 了は、何故か一瞬言葉に詰まった様に感じたけど、思考が纏まり再び顔を向けると何時も通りの笑顔だった。
少しだけ引っ掛かったが…この短い間の了の言葉を拾い、私は私なりの推理をする。

「ははぁ。いけないなぁ獏良君。そんな邪な事を考えて。うら若き乙女に一体何をしようと言うんだね。」
「え…えぇ!?ち、ちっ違うよ!!そう言う訳じゃなくて、あの!だから!!」

 …あれ?何か変だ。
何時もの了ならきっと…こんな冗談、軽く受け流してくれると思ったんだけどな。
そして…おたおたするのは…私の役じゃないのか?
了は赤くなったり青くなったりで忙しい。
それが何だか面白くて、つい吹き出してしまう。

「大丈夫だよ。お父さんには、今日は散策してくるから遅くなるって言ってある。お邪魔しても良いかな?了のお家。」

 そこまで言うと、漸く了は平静を取り戻した様だ。
一瞬呆気に取られた様にぽかんとした後、「ひ、酷いよ!からかうなんて。」と不平を漏らす。
ふふん。私だって何時も遣られっ放しじゃないのさ!
ここぞとばかりに追い討ちを掛けようと態勢を整える。
だってこんなチャンス、滅多に無いもの!!
私は更に無意味に窘めの言葉を続けようとした、その矢先。
了は嫌に真剣な顔で、私に向き直り言った。

「大事な話があるんだ。」

 それは決して大きな声では無かった筈なのに、変にクリアだった。