Dream Story
Les autres me
01.【Premonition】 02.【Reunion / Confusion】 03.【Enchante】 04.【Avis】 05.【Pause-temps】 06.【panier-repas】 07.【l'heure du dejeuner】 08.【Apres l'ecole】 09.【Burger World】 10.【Regle】 11.【auto haine】 12.【sermonner】 13.【Maniere】 14.【Dans la Accueil】-Si mon- 15.【Dans la Accueil】-Si Ryou-

16.【La privation de sommeil】
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⇒+ aller a TEXTE +
⇒+ aller a principal +


 武藤君の家から帰るのはとても名残惜しかった。
久し振りにとても楽しかった。
ばたばたと出て来てしまったけど…後片付けは良かったのだろうか…。
そんな事をつらつら考えていると不意に了が切り出す。

「登校初日は如何だった?」
「色んな事があって少しだけ疲れたかなぁ…。」
「でもみんな…本当に良い人達ね。」
「そっか。なら良かった。」

 にっこりと笑う彼に、先程の彼が頭を過ぎる。
何故あの時了は…怒ってしまったのだろう。
あの時…確か…私は…

「あ。」
「…ん?なぁに?」

 そうか。了は、

「私が何で瀬人の家に居るのか曖昧にしたの…嫌だったよね?」
「…あぁ…その事…。」
「いや、もう良いんだ。気にしないで。」
「…良くない…と、思う…。」

 言いながら、何故か解らないけど…自信が無くなる。
了は困った様に笑っているけど…私は、話さなければならないと思った。

「本当にね、たいした事じゃないの…。」
語りだしてしまったが…まだ上手く言葉は纏まっていない。
きっと、まだ話すかどうかも迷ってる。
けれど私は思い付く所から、思い付くままに話し出す。

「少し前迄居た施設がね。人が増えたり色々…ぐちゃぐちゃした事があってね。」
「…私もう16じゃない?年齢的にも、そろそろ出て行かなきゃならなくて。」
「如何しようかなぁー…って考えてた時に、気付いたらこの街に足が向いてて。」
「本当に、偶然だったの。瀬人に会ったのは。」

 私は思い返す。あの日の事を。


「小さい時に過ごしたこの街に、ただ、逃げて来ただけだったのかもしれない。」
「…逃げる?」
「うん。…なぁんか、色々上手くいかなくて。ははっ…。」
「ただ、甘えてただけだったのかも…。…多分。そうだったんだと思う。」
「…如何し様も無い事ぐるぐる考えて…ぐるぐる歩いて…もう疲れたーって思ってた時に、目の前に大きなビルがあって。」
「それが私には、如何仕様も無い壁に感じられて…多分、暫く立ち尽くして見上げてた。」
「本当に…行き先が、行く場所が、何処にも無く感じたの。」

 如何仕様も無い閉塞感。
少しずつ…少しずつ…泥の中に沈み込む様な…。
あの日私は、夕日射す巨大な壁を前に飲み込まれそうになっていた。
何故だか無生に哀しくて、虚しかった。


「そしたらね、中から人が出て来て。」
「あぁ、あんなに若そうに見えるのに、あの人はこの壁を越えたのかなぁとか馬鹿な事を考えてたら…そっくりなんだもん。びっくりしちゃった。」
「それって…。」
「瀬人だった。」
「じゃあが居たビルって…海馬コーポレーションだったんだ。」
「後から知ったんだけどね…ははっ。もー今思い出すだけでも恥ずかしい。」

 少しだけおどけてみる。
だけど…もう了は笑っていなかった。
真剣に…聞いてくれている。
おどけたところで、更に虚しさの増していた私は
あぁ、別に無理して笑わなくても良いのかと、楽になった様な気がした。

「…それで?」
「それでおしまい。…いや。違うか。」

「すーーーーーーーーっっっっごい怒らたの。瀬人に。」

 今度は本心からの笑顔。
馬鹿だった私と、その時の…瀬人のお父さん振りに。

「怒られた?…何か…楽しそうだけど…?」
「違うの…本当に、凄く怖かったの。」

 とうとう私は噛み殺した声を上げて笑い出してしまう。
あの時は苦しくて、苦しくて仕方無かったのに。
今思えば−私なんて。きっと大した事じゃなかったんだ。

「お前は其処で、そんな所で立ち止まったままで良いのか!?」

 急に大声を出した私に了は目を大きく見開き驚いている。
私はそのまま、腕を組み、仁王立ちになったままで続ける。

「己の進むロード!其れを途中で放棄した者に未来は無い!!!」
「立ち上がれない者は負け犬だ!!」
「……オレの知っているお前は…そんな奴では無かった…。」
「お前にチャンスを呉れてやるってね。言ってくれたの。」

 腕を解きながら、また呟く様に話し出す。
色んな想いが逡巡する。
一旦俯いてしまった私は、中々顔を上げる事が出来ない。

「そうだったんだ…。」
も…大変だったんだね。」
「…そんな事無いよ。」
「こうしてまた、了にも会えたしね。」
「そっか。」

 ゆっくりと。緩慢な動きで首を持ち上げると其処には−優しく微笑む了が居た。
駄目だ。気を抜くと泣いてしまいそう。

「良かったね。」
「…うん。」
「ちょ、ちょっと待って!!もう止めよう!本当に!!私今何か凄く泣きそう!!何か解んないけど!」
「泣きたい時は泣けば良いよ。嬉しくても、哀しくても。よく解んなくてもね。」

 ばたばたと両手を振って制止しようとした私に、にっこりと笑った彼が言う。
その笑顔は、ちょっとずるい。
私の目から、ぱたぱたと涙が零れる。
何故だろう。
私は自分でも、了が言う様によく解らないけど、次々に込み上げてくるものを止められない。
哀しい訳ではない。
きっと、嬉しかったんだ。彼の優しさが。

「でも…あんまり泣くとメイク落ちるよ?」
「う、うるさいよ!?てかこの状況でそんな事言わないよ普通!!」
「えぇ〜?」

 いきなり何を言い出すのかとびっくりしたけど…了らしいと言えば了らしいな。本当。
きょとんとした顔の了を見たら、何だか今度はおかしくなってくる。
自然と私の涙は止まっていた。

「あ゙ぁー…こんな道端で。いやぁよく泣いた泣いたよ。」
「すっきりした?」

 はい、とハンカチを差し出しながら微笑む。
受け取りながら私も笑顔で応える。
ふと…目の周りがどうなってるのか気になる。
そっと当てる様にして拭ってみるけど…大丈夫みたいで安心する。

「それにしても…なんかさ、こう言う時はこう…もうちょっと違う事言うもんだよ?普通。」
「違う事?」
「例えば…大丈夫!君には僕がついてる!!とか言ってさ!」

 私は大きく広げた腕を抱え込む様な仕種をしてみせる。
出来るだけ真面目に。真剣に。
真に迫った感が出せたと自分でも思う。
了の方に顔を向けたら其処には困った顔で笑う彼が−居る筈だった。
だけど其処には呆けた了が居た。
 あ…あれ?引かれた、かな?
私は気恥ずかしさと気まずさが綯い交ぜになり如何して良いか解らない。
取り敢えず佇まいを正し、改めて文句を言ってやろうと思った矢先の事だった。

「いや、勿論ボクはそうしたかったんだけど…。」
「…は…?…え?え、いや、冗談…だよ?」
「えぇ?そうなの?酷いよ、ボク真面目に言ってるのにー。」

 無邪気な子供が拗ねる様にむくれる了は…今、何かとんでもない事を言った気がする。
余りに自然に肯定で返された私はフリーズ寸前。
これは…如何言う状況?
其処に現実が割って入ってくる。

「…っ、時間!!!」
「あ!!…もうすぐ七時だよ!?」
「やばいやばいやばい、絶対、玄関で腕組んで立ってるよ瀬人…!!」
「お父さんだからねぇ。」
「そうじゃなくて…。」

 あんまりにもぽや〜っと発言する了に、ずるっと滑るかと思うくらいに脱力する。
こうしている間にも刻一刻と時は過ぎる。
如何して良いか解らずあたふたとする私とは対照的に、変わらない調子で了が言う。

「大丈夫だよ。だってもう此処海馬君の家だし。」
「…え?」
「もうちょっと行ったら門が見えてくる筈だよ。」

 私は長く続く木々と柵を、公園か何かだと思っていたのだが…。
そう言えば…落ち着いて見てみれば…見た事がある風景。

って方向音痴だったっけ?」
「ち、違うってば!!」
「じゃあ…此処まで来れば大丈夫かな?」
「え、…うん。」
「それじゃあボクはこの辺で。」

 …何だろう。この寂しい感じは。
私は…何を甘えているんだろう。
もう少し一緒に居て欲しいだなんて。

「このまま玄関先まで送って行ったら海馬君に怒られそうだ。」
「…確かに。」

 否定は出来ない。
瀬人は…あんまり了達とは仲が良くないみたいだし。
そうだよね。仕方無いよね。
 片手を挙げ、「じゃあまた明日。」と言いながら来た方向に踵を返す了を、私は見送る事しか出来ない。
どんどん遠ざかって行ってしまう。
言わなくちゃ。何を?
言わなくちゃ。でも、何を?

「了!!」

 何時ものきょとんとした表情で「なぁに?」と言わんばかりに振り返る。
私は彼を呼び止めて、如何するつもりなんだろう。

「…また明日!!学校でね!!!」

 片腕を目一杯に振り上げ、私は彼に叫ぶ。
にっこりと微笑み小さく手を振ってくれた彼が見えなくなるまで私は其処に立ち尽くすしか出来なかった。

「…行っちゃったね。」
『そうね。』

 頭の中で優しい声がする。

「明日。楽しみだな。学校。」
『それは良かった。』
「うん。…さ!早く帰らないと。…本当に瀬人がキレる!」

 私は急いで海馬邸の門まで走っていった。