Dream Story
ばくらけ
【寒い朝は】 【雨とあいつ】 【根競べ】 【眠り姫vs日曜日よりの使者】


⇒+ remise +
⇒+ aller a TEXTE +
⇒+ aller a principal +



−…降り出しやがったな…。


 暗雲が重く圧し掛かっていた空はとうとう耐え切れなくなり一つ二つと零れ出す。
あいつが出て行った後の玄関には傘が二本。
一つはオレの。
もう一つはあいつの。
今朝あれだけ持って行けと言ったのに何故忘れて行くのか理解に苦しむ。
 ふと外に目をやると申し訳無さ気に落ちていた水滴は勢いを増し本降りになっていた。
足元に柔らかな感触。
小さな小さな黒い猫が見上げて居た。
 反動無しに持ち上がるそいつはオレの顔の高さ迄来ると鈴を転がす様な声で鳴いた。

「なぁゾーク。あいつは何であんなに物覚えが悪いんだろうなぁ…?」

 問い答えが返ってくるでも無い。
変わらず大きな目をこちらにじっと見据えたままだらりと垂れ下がった猫は少しだけ首を傾げた。
 厚い雲に太陽は完全に遮られ今が何時なのか咄嗟に判断出来ない。
夕闇に飲まれる前だと言う事は判るが、朝からずっとこの調子で時間の感覚が無い。
…そう。朝から、ずっと、こんな空模様なのだ。
 −解らねぇ…。こんな日に忘れて行くかぁ?普通…。
手に持ったゾークはこの状況に飽きたのか不快なのか、両手足をばたつかせる。
抱え直し居間に掛けられた時計に目をやると時刻は午後四時を少し回ったところ。
そろそろ帰って来る頃か…。

「仕方無ぇ。迎えに行ってやるとするかねぇ。このオレ様がな。」

 抱え直したゾークは腕の中で安定しているのか、機嫌の良さそうな声で短く鳴く。
そのまま家を出ようかと思ったが、意識の中に急に浮上してくる。

「そういやぁ…テメェのご主人様は何時まで寝てやがんだぁ…?」

 そいつに対しても、それを思い出してしまった自分にも不快になる。
ベランダの窓から空を眺めて居たが、出掛ける前にすべき事があるのも一緒に思い出す。
リビングを突っ切りドアを抜ける。
狭く短い廊下の途中、少しだけだらし無く開いているドアを無遠慮に開けると−そこは魔窟だった。
…おかしい。
つい三日前、ほんの数日前にオレはこの魔窟を人間の住める部屋にした筈だ。
だが今目の前にあるのは−
 ずかずかと足の踏み場も無い床を進み、布団なのか衣服なのか判らない中に埋もれているそいつの身体目掛け勢い良く足を振り下ろす。

「っんがっ!?」
「お゙い!!盗賊、テメェ部屋は片せと何度言やぁ気が済むんだ!?あ゙ぁ゙!!?」

 衝撃に驚いたそいつは布の中から飛び上がる。
 褐色の肌。
薄い灰紫がかった髪。
同じ色の瞳。
顔の右半分には大きな傷跡。
でかい口からは同じ様にでかい声が出る。

「ってぇな、何しやがる!?」
「それはこっちの台詞だ!服は掛けろと言ってるだろう!!つーか何で服着てねぇんだ!!!」
「良いんだよどうせすぐ着んだからよ゙ぉ!!動き難いだろ!!?」
「一体誰が洗うと思ってやがんだ!!!」
「そらぁ…テメェだろうなぁ?」

 耳をつんざく馬鹿笑い。
これ以上何言っても埒が開かねぇ。
足元に軽い違和感。転がる空き瓶。
抱き抱えていたゾークを降ろし、反対にそれを掴み奴目掛けて振り下ろす。
しかしそれは寸での所で空を切る。

「な、何しやがる!?危ねぇだろ!?」
「ゔるせぇ!!解ってんなら片付けろっつってんだよ!!!」

 あたふたと口答えする奴の脇にも別の瓶。
中にはまだ半分程度入っているらしく、口にはきっちりと栓がされているが
零れ出さないのかと不安を感じずにはいられない。
相変わらず強張った表情で壁に引っ付いている持ち主にそれは何だと問うと、
瓶を持ち上げ歯を見せ屈託無く笑いながら一言。

「寝酒。」

 さて。今オレの中に渦巻く殺意は如何やって発散させてくれようか。
 無言で中身の入っている瓶を引ったくり、
先程から反対の手に持ち続けている少し小振りの空き瓶を今度こそ奴の脳天に振り下ろす。
鈍い音と衝撃が心地良く耳と腕に伝わる。

「何でそんなもんが布団に入っていやがるかって聞いてんだよ゙ぉ!!!」
「ってぇな!寝酒だからだろぉがよぉ!?」

 駄目だこいつ早くなんとかしないと…。
 軽い頭痛。深い溜め息。
眉間に指をあてると深い溝が刻まれていた。
場違いな涼し気な声で短く鳴いたゾークがベットに飛び乗る。
ぱっと顔色を変え擦り寄るそいつを手荒に撫でる。
嫌がる様子も無くされるがままだ。
その様を見ていると如何でも良くなってきた。
何をやっているんだオレは…。

「…もう良い。オレ様は出掛ける。」
「ん?何処行くんだ?」
の迎えだ。」

 そうだ。こんな所で愚図愚図としている場合ではない。
最悪擦れ違いなんて事になったらただの無駄足だ。

「テメェはさっさと起きて仕事でも何でも行きやがれ。」
「迎えって何だぁ?」
「雨が降ってきやがった。傘はそこだ。」
「雨かよ…ったく面倒臭ぇ…。で?騎士は傘持って姫を迎えに行くのか?」
「気色悪ぃ事吐かしてんじゃねぇよ…。」

 でかい図体でにやつきながら言う。
無視しようかとも思ったが自然と言い返してしまう。
無駄口が多いのはオレも同じか。
 元来た足場を探りながら慎重に部屋を出ようと踵を返す。
ったく…何で数日で此処まで散らかせるんだ。

「…。なぁ。オレ様も着いてってやるぜぇ?」
「…はぁ?」

 思わず足が止まり声が漏れてからまずい事になったと思った。
これは奴の気まぐれだ。
ならばこの提案は完全に無視してしまえば良かったのだ。
そうすれば初めから無かった事に、奴も大人しく引き下がる。
しかし、余りに馬鹿げた言葉に振り返ってしまった。
後から悔やんで後悔。
誰だか知らねぇが…上手い事言いやがる。
振り返った先には…これ以上無いくらいに上機嫌ににやついた奴が居た。

「ナイトはキングのお供ってのがお決まりだぜぇ?」
「ほざいてろ。ぶち殺すぞ。」
「おぉ〜、おっかねぇ!」

 言いながらその辺に散乱する布の山から適当に何枚か引ったくり纏う。
それでもそれなりに見えるので更に神経を逆撫でする。
立ち上がったそいつの足元は、

「…頼む。スーツのスラックスのまま寝んじゃねぇよ…。」
「?」

 オレの予定の中に、近々クリーニング店に行かなければならいと追加された。



 マンションを出ると雨足は更に勢いを増している。
馬鹿に構わずに家を出れば良かったと今更ながらに思う。
自分の傘を挿し足元の悪い中反芻する。
隣には小脇に黒い猫を抱えた図体のでかい男が上機嫌で歩く。
恥ずかし気も無くあいつの傘を挿しながら。
内側に青空の描かれたそれは、妙に違和感が無い。
外側がパステルブルーだと言う事以外は。

「…待て。テメェ、何でゾーク連れてやがる?」
「あ?置いてったら可哀相だろぉ?」
「そうじゃねぇ!!テメェ、仕事どうすんだ!?このまま行くんじゃねぇのか!?」
「はっはぁ!なぁに言ってやがる!雨が降ったら休みなんだぜぇ!!」
「寝言は寝て言え゙ぇ!!ん゙な訳あるかぁ!!!」
「細けぇ事言ってんじゃねぇよ。」

 冗談じゃねぇ。後から文句を言われるのはこのオレだと言う事を忘れてもらっちゃ困る。
男はそんな事は何処吹く風と全く気にもしない様子で先を歩いて行く。
…先が思いやられ自然と深い溜め息を吐いた。


 周囲は次第に住宅地から街へと姿を変える。
自宅周辺は静かなものだが、やはり中心部は賑わいをみせている。
こんな天気だと言うのにそれなりの人通りだ。
 向かいから鮮やかなピンクのジャケットとブルーの学ランの小さな集団が歩いてくる。
何か楽しげに盛り上がりながらはしゃいでいるのと擦れ違うと少しだけ懐かしく思った。
童実野高校。
それは今でもつい昨日の事の様に思い出せる場所だ。

「ん。おい、テメェにこいつを預けるぜ。」

 郷愁の念に捕らえ掛けられたオレに差し出された大きな瞳と小さな身体。
濡れない様に傘ごと此方に渡してくる。
反対に奴の身体はあっと言う間に雨に打たれ濡れていく。
もう少し上手いやり方があるだろうと思うが言葉は飲み込む。
柔らかな身体を腕に抱えると、途端に小走りで去って行った。
 一体何かと思えばその先にはコンビニ。
自分の傘を持たない奴が自分の分を買うのだろうと高を括って眺めて居たが、
あろう事か小さな袋を提げて出て来たた奴は、入り口に設置されていた傘立てから適当に一本引き抜き帰って来る。

「待たせたな。」
「…テメェ…それは一体何だ。」
「…食うか?」

 小奇麗な黒い傘を差し上機嫌な奴に問うと袋の中から小さな駄菓子を取り出し一つ差し出すそいつに脱力しながら抱えている猫を返す。
『その傘は一体何ですか。』と問うべきだったろうか。
一々めんどくせぇ奴だ。

「要らねぇよ…。傘買うんじゃなかったのか。」
「あぁ?…。オレ様は盗賊王だからなぁ!!」
「馬鹿は休み休み言いやがれってんだ。置いてくぞ。」

 傘如きで盗賊王とは小さな王様だ。
いっそ裸の王様にでもなれば良いと心底思う。
こいつにはぴったりだろうよ。
 そんな事をつらつら考えていると目の前が開ける。
やっと駅に辿り着く。
一人ならもっと早く着いただろうに。
思い返しどっと疲れる。

「…居ねぇなぁの奴。」

 くるくると傘を廻しながら辺りを見回すと奴が一言漏らす。
同じ様に目をやるが…確かに姿は無い。
行き違いになったか。
この数時間の事を思い返しうんざりする。
一体その数時間の間にオレ様は何度溜息を吐かなければならないのだろうか。
 ふと溢れる人。流れ出す傘の群れ。皆足早に歩いていく。
電車が到着したのだろうか。
同じ様な服装の人間で辺りが埋め尽くされる。
 その中で目に付いた白い姿。
庇のある所ぎりぎり迄来て立ち止まり、空を見ては中に戻る。
困り果てた様にうろうろとしていたそれはやがてその場にしゃがみ込む。
−見付けた。
少しばかりの高揚感。
隣でまだ辺りを覗っている役立たずを置いて一人其方へ向かう。
近付くオレに気付く様子も無く、はぼさっと視線を落とし虚空を眺めている。

「何やってんだ。」

 意識した訳では無かったが、こいつの視界に入る前に声を掛けてしまったらしく
はびくりと反応し、視線を此方に向ける。
一瞬強張った表情だったが、オレだと解ると表情が一変する。
其れは驚きとも喜びとも、何とも表現し難いものだった。

「バクラ!!」
「よぉ。」

 ぱっと立ち上がるが、オレが見下ろす形なのは変わらない。
見上げたは全身から嬉しいと言っている様に感じる。
単純な奴だと思う。
こいつ…オレが迎えに来なかったらずっと此処でこうしているつもりだったのだろうか?

「こんな所で座って何してやがる。」
「…バクラこそ…こんな所で何してるの?」

 全くその通りだ。

「喜べ。オレ様が傘の無ぇテメェを迎えに来てやったんだ。」
「傘の無い?」
「ほらよ。」

 一瞬だが、きょとんとした顔でオレが差し出す傘を受け取ると、次第に笑顔へ変わっていく。
力を抜いた、柔らかい表情に少しだけ鼓動が早くなる。

「ありがとう。」

 たった一言。
ただこの一言だけで。今日一日が報われた気がした。
思い返せば腹立たしい事この上無い一日だったが…許してやる事にするか。
手の中で傘を弄っていたはふと呟く。

「…あれ?バクラ…傘二本差してたの?」
「は?んな訳無ぇだろ?」
「じゃあ…何で濡れてるの?これ。」

 そう問われたのとほぼ同時に背後からでかい声。
このまま置いて帰ろうと思っていたオレの計画は一瞬にして流れ去る。

「おぉ!居やがったなぁ。んだよバクラ…見付けてたなら教えてくれても良いんじゃねぇのかぁ?」
「テメェは放って行こうと思っていたんでなぁ。すまねぇすまねぇ。」
「な゙っ!?」
「盗賊も来てくれたの?」
「おう!嬉しいか?」
「うん!」

 出来る限りなめた口調で返したオレは、満面の笑みで盗賊の言葉に答えるが少しだけ面白くない。
こんな奴は如何でも良いだろう?
迎えに行ってやろうと思ったのはこのオレだ。
そしてこいつはオレの女だ。
なら、オレだけ見ていれば良い筈だ。
 ふつふつと湧き上がる何か。
喉のすぐ其処迄出掛かる言葉。
其れを吐き出そうと息を吸った時、腕に軽い衝撃。
見れば、その腕にはがくっ付いている。
視線が絡む。
『えへへ。』と少し顔を赤らめオレを見上げるを見ていると、湧き上がっていた黒い何かは霧散していく。

「お腹減ったね。」

 軽い脱力感。緩む表情。
こいつ…最近了と言う事が似てきたんじゃねぇのか?

「うわ。バクラが笑ってやがる…気持ち悪…。」
「な゙んだとぉ…?」
「ちょ、気持ち悪くないよ。可愛いじゃない。」
「「…はぁ!?」」
「うわ。バクラと盗賊がハモった…気持ち悪…。」

 霧散した何かは、はっきりとした怒りに姿を変え始めようとした矢先、
の言葉にオレと奴は同じ反応を示してしまう。
…可愛いだと…?いきなり何をぬかしやがるんだ?こいつは。

「…あれー?こんな所で何してるの?三人して…。」

 場違いに明るい声。
振り向くと其処にはオレが立っている。
いや、そいつはオレにそっくりなもう一人のオレ。
了は足早に此方へ向かってくると不思議そうな顔で三人を見比べる。

「なんだ。テメェも今帰りか?」
「うん!…。」

 歯切れ良く答える了だが…その後何故か沈黙する。
そしてまた、三人其々に視線を移しながら呆けた顔をしている。
鈍感な盗賊ですら違和感を感じたらしく、とうとう切り出す。

「一体何だぁ?そんなじろじろ見る程面白いもんじゃねぇだろ?」
「いやぁ…何かこうして見ると、が柄の悪い二人組みに絡まれてる様にしか見えなくてさぁ。あはは。」
「な゙っなんだと!?もういっぺん言ってみろ!!」
「ほらぁ。そうやってすぐ怒鳴るしさー。」

 言われ、返せない。
だが…に、絡むだと?
誰が。オレが?

「そんな事無いよ了。折角迎えに来てくれたのに…。ね?バクラ。」

 困った様に笑うだが、内心穏かでは無い。
ざわざわと、何かが波立つ。
そんな風に、見えるのか?
 オレを見詰めるは、少しだけ小首を傾げ此方を見詰める。
其れを見詰め返すオレは、今一体どんな表情をしているのだろうか。

「大丈夫だよバクラ。怖くないよ。可愛いから心配しなくても大丈夫だって。」
「えぇ、、可愛いの?バクラが?」

 怪訝な顔で了が問い返すのと同時に盗賊の奴が馬鹿笑いを始める。
先程波立っていた何かは、今はっきりと形になる。
即ち其れは、

「テメェら…いい加減にしねぇと…晩飯抜きだぞぉ!!!?」
「ぎゃあっ!バクラが怒ったぁー!!」
「うぉおっ!?」
「あっ!待ってよー!!」

 身動ぎ、三人一斉に散り散りと駆け出す。
出遅れたオレも怒りに任せ駆け出そうとしたその時、視線の先で止まる何か。
ゆっくりと振り返り、此方に向き直る。
あいつのスカートの裾が柔らかく翻る。
の後ろには傘の内側に描かれた青空。
同じ方向に後ろから流れる人が止まらない中で、それはやけに鮮やかに目に映った。
 何を思ったのかがオレの方に戻ってくる。
そして、目の前で止まると手を差し出す。
一体…何だと言うのだ。

「一緒に帰ろう?」

 如何して良いのか解らず、動きが止まる。
何故か鼓動が早くなる。
其れは怒りからくるものとは違う何か。
オレは、動けない。
 暫し間を置き、はオレの手を取る。
視線を上げると、少し離れた所で残りの二人も立ち止まり此方を見ていた。

「…そうだな。」
「うん。」

 庇から見上げた空は相変わらず重く、暗く圧し掛かったままだが
と肩を並べ歩くオレの心は何故だか少し気持ちは軽かった。



 四人で並んで歩く。
生活時間帯の少しずつ違う私達にとって、これは滅多に無い事で。
私と、バクラと、了と、盗賊と。
並んで歩くと背も雰囲気もばらばらなのに、何かしっくりとくるのが少しだけ面白い。
四人で取り留めも無い事を話す。
それは今日一日の出来事だったり、誰かの文句だったり、何が食べたいとか、明日は晴れるかとか。
そんな如何でも良い事。
気付けば街は静かに様子を変え、到着が近い事を予感させる。
 もう終わってしまうのかと、少しだけ寂しい様な感じがする。
寂しいとは…少し違うのかもしれない。
もっと別の何か。
…勿体無い。
そう思う。
一人では長い帰り道も、あっと言う間に終わりを告げ様としていた。
 ふと了に肩を叩かれ手招きされる。
一体何だろう…?
肩を竦める様子から、何か二人には聞かれてまずい事なのだろうか?
出来るだけ自然に、そっとバクラの横から離れ、了と少し遅れ後列に並ぶ。

「何?如何したの?」
さ…傘、持ってるんじゃなかったっけ?」
「あぁー…うん。あはは…。」

 そう。私の鞄の中には小さな折り畳みの傘。
朝バクラに口を酸っぱく言われ、忘れずに入れておいた。
今差している長いスタンダードな傘は出掛けぎりぎりで走るのには邪魔だったからなのだが…。

 しかしそれは失敗だったと思っていた。
視線を落とすと、先には真新しい真っ白なスカート。
正直この雨の中を折り畳み傘で帰るのは気が引けていた。
少しでも雨脚が弱くならないかと淡い期待を胸にうろうろして居た私は
彼の差し出した大きな傘にとても助かっていた。
勿論、それ以上に、彼が−バクラが迎えに来てくれた。
その事自体が、私にはとても嬉しかった訳なのだが…。

「バクラ…知ったら怒るかなぁ。」
「怒るってゆーか…多分ウィジャ盤発動するよね。きっと。」
「うわぁー…。」
「…絶対、絶っ対、内緒だからね!?」
「うん。ボクお腹減ったし。早く晩御飯食べたいもん。」
「えぇ…ちょ、ご飯食べ終わってからばらすのとか…無しだよ?本気で。」
「えぇー解ってるよぉー。」

「おぉい!何やってんだ、置いてくぜ?さっさと歩けよー?」

 私達は互いに顔を見合わせると微かに笑い、バクラと盗賊の許へ駆けて行く。
気付けば雨は弱くなり、雲の間から薄く月が覗いていた。
明日はきっと晴れるだろう。

小さな猫が、間延びした声で鳴いた。